ポジティブで聡明な、都合のいい女。 その2

その1の続き

 

「彼氏が出張で、予定していたデートがリスケ。なんかモヤモヤするよね。」
その言葉は夏から秋への変化を告げる風のような、喜怒哀楽で言うならば哀が言葉の周りを包み込んでいる。
そこには彼女の名前にもある喜久子(キクコ)の喜はどこにもない。

相手は個人事業主であり、仕事の都合は自分で調整がしやすいはずだ。わざわざデートの日に入れたのは、めんどくさくなったに違いない。というのが喜久子の言い分である。さらに、彼氏には家庭があり、奥さんと子供が2人いて一緒に住んでいることもどうやら影響しているのではないか。と勘ぐっているのだ。

それはそうだろう。
男は彼女(人によっては愛人というだろう)ができたからといって、自分から家庭を壊すようなことはしない。
いつでも癒やされたいという自己中心的な考えがある人が大半だ。とくに個人事業主となれば、常に他人との関係に神経をすり減らし、自分の意志を貫いてきたのだからなおさらだ。


喜久子の良いところでもあるのだが、ポジティブなのであまり落ち込まないし、落ち込んだとしても引きずらない。
少なくとも喜久子と知り合ってからの6年、ここまで愚痴っぽくなるのは珍しい。
デートが延期になったことなど、これまで何度もあって聞いたし、そのたびに「自分の時間がとれたので趣味に使う」と、なぜそこまでポジティブになれるのかと、僕が不安になるくらいであったのだが、今回はどうやらポジティブには切り替えられないようだ。


お酒も幾分か飲み、お互いが程よく酔ってくる。会話のキッカケから内容が外れていくことも増えてきた。我ながら支離滅裂な状況である。
「なんか疲れちゃったなー。色々と。」
喜久子が言った。

 

続く。