ポジティブで聡明な、都合のいい女。 その4

その3の続き

 

喜久子が不意に腕組みをしてきたことで体温が上がった気がする。いや、お酒せいだろうか。お酒を飲んでいるという言い訳を自分に言い聞かせて自意識を保つ努力をしていたのだろう。組まれた腕は喜久子によってロックされていく。二人の間には風を通す隙間はもう、ない。


予想されていた?とおり、喜久子に対するナンパは行われることはなかったが、居酒屋へのキャッチは弱まるどころか、むしろ狙いを定められたようにさらに強くなる。
このまま繁華街をフラフラとしているわけにもいかず、少し裏路へまわる。これはこれで迷ったが他に良い案が浮かぶわけでもなく吸い込まれるように暗い方へと進んでいく。
喜久子への感情がまったく無かったわけではない。喜久子を女性として接していたし、嫌いであれば一緒に飲みにはいかない。
ただ恋愛感情というものは無かった。「好き」ということとはどういうことか、未熟な私には計り知れないけれど、ただ単に抱きたい、せックスしたい(ここでは性欲対象)ではなく、相手に逢いたいと思う気持ちでだとするならば自分には思い当たる節がない。


時間はすぎ、歩数は増えていく。iPhoneのヘルスケアは最高記録かな?なんて呑気なことを思いつつ、
「あそこにある公園のベンチですこし座ろう」というと、
「うん」と、しおらしい声でかえってくる。
公園に入ってみると周りには誰もいない。それはそうだ。こんな時間に公園になどいる理由がない。
周りをキョロキョロとしながら「さすがに誰もいないな。」と話しかけるが返事はない。
何か会話の糸口がないかと喜久子のリアクションを確認しようと振り向くと、喜久子はこちらをみている。
そしてキスをしてきた。


続く。