ポジティブで聡明な、都合のいい女。

夜の繁華街で、「いいお店ありますよ?」と声をかけてくるお兄さんをスルーしつつ、
どこのお店に入るのかをぶらぶらと歩きながら物色していると、
「裏地が薄いからちょうどいいんだよねー。っていうかこれ以上寒くなると着れないからさ。」
彼女は今の季節にしては少し厚着にも見えるトレンチコートを着ていたが、そうらしい。その下にはワインレッドのハイネックを着ているから、確かにそうなのかもしれない。
仕事にもプライベートにも熱い想いを胸に秘めている彼女らしい色だなと、なぜか納得している自分がいる。


適当にあたりを見渡すと、いかにも最近オープンしたであろうキレイめなお店が目についた。
学校でクラスに来た転校生に近いな、という懐かしい感覚に浸りながらお店に入ると最後の空席だったカウンターに案内され、腰をかけるなりビールを注文する。
彼女はビールが好きなのでいわゆる"最初の1杯"にメニューは必要ないのだ。
僕はあまりビールが好きではない(といいつつ、夏は好んで少しは飲むが)のでハイボールを注文し、乾杯をする。


いつも飲みに行くときは恋愛相談がもっぱらだ。相談というよりは彼女が一方的に話しているという方が正しいだろう。
ふたりともそれなりに年齢を重ねて、もう学生気分でワイワイ飲むというのは10年以上も遠のいている。
あてで注文した餃子を食べ餃子の寸評を一通り終えるとつづけて話し始めた。
「彼氏が出張で、月末に予定していたデートがリスケ。仕事だから仕方ないのかもしれないけどなんかモヤモヤするよね。」

 

前回聞いたときには復縁して喜んでいたと記憶していたが、人の恋愛は、他人の子供のように成長が早い。いや、進展というべきか。


その2へ続く。